Interview for tamae_hirokawa

7.Tamae Hirokawa(Fashion Designer) / 廣川玉枝(ファッションデザイナー)

PROFILE

文化服装学院アパレルデザイン科を卒業後、イッセイミヤケを経て 2006 年、独立してソマデザイン (SOMA DESIGN) 社、ファッションブランドの「ソマルタ (SOMARTA)」を立ち上げる。2007S/S 東京コレクションにてコレクションデビュー。 " 身体における衣服の可能性 " をコンセプ トにした無縫製ニットのボディウエア「スキン」で話題となり、2007 年、第 25 回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞を受賞。またマドンナやレディー・ガガがそのボディウエアを着用したことで世界からも注目された。2014 年、国内外初の単独展覧会「廣川玉枝展 身体の系 譜 ~ Creation of SOMARTA ~」を開催。自身がクリエイティブディレクターとして携わる SOMA DESIGN では、ファッション、プロダクト、サウンド、グラフィックなど、幅広い分野で活動を展開している。http://www.somarta.jp/

Question & Answer

昨年、発行されたある文芸誌で「レディー・ガガがリスペクトする4人の日本人」という 記事に今回、インタビュー取材にご協力頂いた「SOMARTA」のデザイナーである廣川玉 枝さんの名前があった。彼女の作る無縫製のボディウエアはとても革新的で、海外の著名 アーティストから声がかかるほど、世界中で様々な人たちに認知されている。今回のイン タビューを通して、当ブランドの根幹である「スキンシリーズ」と毎コレクションで魅せ る造詣の深い多種多様なカルチャーの着想について、廣川さんの考え、感覚、スタンスを お聞きした。
  • Q1.ファッションに興味を持ち始めたのはいつ頃でしょうか?
  • Tamae Hirokawa(以下TH): 高校生の終わりくらいだと思います。元々は美術が好きで、 人に興味があって人物画をよく描いていました。そういった頃にファッション誌を見る機 会があって、服や化粧で女性が美しく装って違う人物になれることが面白いなと思い始め たのがきっかけだったと思います。服だけでなく、最初は女性が美しくなれる美容全般に 興味がありました。
  • Q2.文化服装学院に入学されたきっかけを教えていただけますか?
  • TH: 美術をずっと学んでいたので、芸術/アートの道に進もうか迷っていたのですが、自 分が美大に行って絵を描き、美術の先生になるのかと漠然と考えると、絵を描くことを職 業とするのは何か違和感を感じていました。それよりはモノを作ったり、人とコミュニケ ーションをつくる仕事がしたいと考えていたのですが、その時にもう一つ思い描いたのが ファッションでした。ファッションとはデザインの中でも創造の自由度が高くて、なおか つアートを身に纏う事もできて、すごく面白いんじゃないかなと。それで文化服装学院に 進学することを決めました。
  • Q3.ご自身のブランドについて、様々なカルチャーや動物、自然、歴史などをモチーフと してコレクションを表現されていますが、多くのモノ/コトに興味、意識が芽生え始めた のはいつ頃なのでしょうか?
  • TH: 植物図鑑のような図録は小さいころから見ていましたが、好きだという認識はなかっ たですね。そういうことが面白いなと感じ始めたのは、文化服装学院に入ってから、人体 解剖学という授業を受けた頃からでした。衣服に密接した、人間の筋肉や骨格の構造を学 ぶ授業だったのですが、身近な自分の身体もそうですが、人体スキャンをしたり、筋肉の 名前を学ぶなど、そういった「人体」について学ぶことを面白いと感じていました。
  • Q4.興味を抱いた理由について、具体的に教えていただけますか?
  • TH: 現代バレエや現代舞踏のことです。勅使河原三郎(テシガワラサブロウ)さんをはじ め多くの方々が演目をされていますが、クラシックバレエと異なり自由度が高く、身体全 体をつかった舞台表現の一種ですね。
  • Q6.よく観に行かれてたのですか?
  • TH: 学生時代にコンテンポラリーバレエを観に行く友人がいたのです。それで、趣味でみ んなと舞台観賞をよくしていました。元々、中学生時代に演劇部に入っていたので、美術 、演劇も好きで舞台衣装、舞台装置なども興味がありました。 学生時代はそんなにお金もなかったので、アルバイトをしながら近くの劇場に観に行って いました。そういうこともあってか、人体解剖学の授業に連動して興味を持ち、身体性に も関心を抱くきっかけになったかもしれません。
  • Q7.学生時代に流行っていたことなど、当時、ご自身で印象的に残っていることはありま すか?
  • TH: 私が文化服装学院に入学したころは、ファッション全盛期で個性的な格好をしている 人が多かったです。今、学校に行くと、みんなさっぱりとしたファストファッションをベ ースにした服を着ている人が多いのですが、当時は、個性的な格好をいかにするかという 時代で、変わった人で溢れていました。当時から、ヴィヴィアン・ウエストウッドやジャ ン・ポール・ゴルチエなどの個性的なデザイナーズブランドを着ている人がとにかく多く て、当時の90年代はデザイナーズブランド全盛期だったと思います。 クラスメイトもみんな個性的な格好をしていて、周囲からもすごく刺激を受けていました ね。
  • Q8.イッセイミヤケのファッション/服作りについて、改めてご自身が感じた魅力を教え ていただけますか?
  • TH: 「服で人を感動させることができる」と思ったきっかけがイッセイミヤケの服でした 。そこに携わる人達やモノつくりの精神に魅力を感じて、自分もこの会社に入ってやって いきたいと強く思いました。 ユニークな服の考え方やデザインの捉え方をする、既成概念に捉われない服づくりに魅力 を感じていました。学校では和装はなく、西洋服飾造形を主にした授業で立体裁断を習っ たのですが、生地があって、いかに型紙でジャケットのような立体感のある形にするかが メインの教えでした。一方、三宅一生さんは全く独創的な考え方で、平面でプリーツをか けて伸びたら立体の服になるものや、無縫製のニットを裁断するだけで、すぐ着ることが できるものもあり、工業的なデザインアプローチで今まで見たことのない魅力的な服づく りを多く提案されていました。
  • Q9.無縫製の衣服「スキンシリーズ」の着想について、初めのきっかけを教えていただけ ますか?
  • TH: 学生時代に「身体の夢」展という大きなファッション展があり、多くのデザイナーブ ランドの服が展示されていて、コレクション誌などでみる創造的な服を直接近くで見る機 会を得て、すごく衝撃を受けました。 「身体の夢」展に、皮膚やボディなどを意識したファッションが展示されたコーナーがあ ったのですが、ジャン・ポール・ゴルチエやイッセイミヤケの衣服もあり、入れ墨プリン トのT-シャツなど皮膚や身体から着想した服が沢山ありました。その展示を通して、「デ ザイナーというのは、皮膚が一番ミニマムだから、究極はここをデザインしたいんだな」 と感じ、そこからいつか自分も独立したら「皮膚」をファッションデザインで表現したい なと、ずっと心の中の種として育ててきました。  在職中に無縫製の機械に出会った時は、ずっと今までニットデザインを手掛けてきた事 もあり、この機械を使ったら、360度縫い目のない第二の皮膚が作れて、なおかつ自分なり の表現として、「セカンドスキン」がデザインできるんじゃないかと思ったのです。これ は自分が独立する良い機会なのかもしれないと思いました。
  • Q10.セカンドスキンの表現に由来する皮膚とファッションの関係性についてご自身の考え を伺えますか?
  • TH: セカンドスキンに興味が出てきたのは、学生時代から人類が皮膚に何かを表現するこ とについて歴史などを調べていたときです。例えば皮膚にタトゥーを入れたりしますが、 各地の民族の祭りの時にボディペイントを施したりします。身体全体を使って、違う何か になるための祈りや願いを表現したり、宗教的な意味合いを持っていることなどに興味が ありました。身体や皮膚に模様を入れて表現することは、国境を越えてあらゆる民族、性 別などを超えたところにある人類そのものの精神を表すようで、そういったことを表現で きる衣服(セカンドスキン)にファッションデザイナーとして挑戦したいと考えたのが、 スキンシリーズをデザインするきっかけです。
  • Q11.スキンシリーズのアウトプット/需要の今後の展開について、ご自身で感じられてい ることを教えていただけますか?
  • TH: 身体性に興味がある人達に人気があると感じていて、日本よりも海外の方が比較的反 応が良いかもしれません。例えば、ダンサーなど身体を表現する人の為の服になるかもし れませんし、まだ需要としては一部ですが、編み方や素材によってスポーツウエアとして 筋肉を意識したデザインも可能です。編みの特徴を応用して、様々な新しいチャレンジを したいと考えています。
  • Q12. ヤマハとコラボした車椅子「02GEN-Taurs」や東京大学で行われた「美しい義足を 作る」展のトークショー参加など、コレクション以外のアートプロジェクトとして人の身 体に寄り添ったデザインプロジェクトに多く参加されている印象を受けるのですが、こう いった参加の背景についてのご自身の考え、また当ブランドにとって、今後「身体」につ いてのデザインのアウトプットは多く考えられているのでしょうか。
  • TH: 私が今まで何年かかけて追究してきた、「身体性」を意識したものづくりが、周りの 人に伝わってお仕事をいただいていると思いますので感謝しています。 ファッションデザイナーはもちろん衣服をデザインすることが大きな仕事の一つですが、 意識が以前よりも身体そのもののデザインについて向いてきている分、これからの時代が 望んでいるデザインについて、ファッションデザイナーとして関われるチャンス、きっか けがこれから増えてくるのではないかと思っています。 車椅子のデザインも「超福祉の日常を体感しよう」展の第一回目のコラボレーション企画 だったので、今後介護や医療系のデザインが進化するのかなと感じています。
  • Q13.ご自身のブランド「SOMARTA」でも女性の美を一つのテーマとして挙げられていま すが、改めて「女性の美」について考えを伺えますか?
  • TH: 自分が考える美の理想というのは、ひとつ女性の強さに鍵があると思っているのです が、「強い」と「優しい」というのは相反する言葉のように見えるのですが、実はすごく 近い言葉であって、その中間を表現できるのが一番美しいと考えています。
  • Q14.ご自身のコレクションの中で自然物のデザインをテーマにされていることを多く見る ですが、インスピレーションを受けていた理由、魅力、きっかけなどを教えていただけま すか?
  • TH: 道ばたに落ちている石が美しいと感じることもあります。自然の写真集を好きでよく 見ているのですが、その中でも「ミクロの世界」を写した美しいビジュアルブックに目を 引かれ、例えば蜂の眼の構造はスピーカーのようなデザインをしていて、とてもメカニカ ルで美しいと感じます。そこから派生して、宇宙の本や海の本、海洋性動物の本、鉱物の 本、石の結晶の本などそういったビジュアルブックがあれば好んで買っている自分がいま す。
  • Q15.自然のデザインは人工的なものではないところに魅力があるということでしょうか?
  • TH: そうですね。人のかたちもそうですが、自然と形成され研ぎ澄まされて出来たデザイ ンは意味があり優れたものだと思います。例えば、花の形、色、香りなども蜂や他の虫を 寄せるためにあって、花が美しくあるのもそういった意味、理由があります。必然的に形 成された自然のデザインに魅力を感じていますね。
  • Q16. 本誌「NUZ」のテーマが刺激なのですが、ご自身で感じられた最近の刺激、また仕 事、生活面でも結構ですが、ご自身の考え方、価値観について新たに再発見したことを一 つ教えていただけますか。
  • TH: デジタルという言葉に対して認識が変わりました。現在、神戸ファッション美術館で 行われている「デジタル×ファッション」展にソマルタも展示しているのですが、そこで はデジタル表現を過去の歴史から紐解き、現代のものづくりまでが展示してます、そこで 「デジタルとは何だろう?」と改めて考えたのです。 デジタルの語源は、ラテン語で[指]を意味するディジトゥス。指で数えられる0から9ま での情報を記号化し、人と機械を交錯して繋ぎ指示することで、未来や後世に幅広く情報 を残す技術として発展しました。 私達が普段使う道具としても、デジタル技術は欠かせないものとなりました。デザイナー のアイデアを形づくるデジタル技術は、一見機械を用いた魔法の道具のように感じられま すが、道具と人がペアになってこそはじめて技術と呼ばれます。道具と職人の在り方は時 代と共に変化しましたが、ものづくりとして、人の手を離れることはありません。 例えば、19世紀にできたジャカード織り機も、パンチカード(紋紙)と呼ばれる穴を開け た紙を入れることによって、その情報通りに生地を織り上げていきます。これは、紙のか たちをしたデジタル技術なのですが、かなり昔から記号化された情報を伝達する為のデジ タル技術があったことを知り、デジタルの認識がまた少し変わりました。